[登場人物]
八五郎 こころの診療所受付嬢 先生
■さぁ、いよいよですヨ。待ちに待ったこころの診療所。これで楽になれると思うと、なんやそれだけで嬉しくなってきますねぇ。
■こんちわぁ。△へえ、おこしやす。■おっ、なんやこの機械は。△その赤いボタン押しとくなはれ。下からスリッパが出ますよって。■へぇ~、進んでるう。腹を押したら屁ぇが出る、赤いボタン押したらスリッパが出るか。こんなもんで感心してる場合やないがな。すんまへん、こないだ予約した八五郎ちぃまんねんけど。
△へえ、お待ちしとりました。そこに血圧計がありますよって、ご自分で測って横の用紙に記入してここへ持って来とくなはれ。
■セルフかいな、ここわ。まぁ、別嬪の看護師さんに測ってもろたら血圧上がってまうっちゅうこともあるし、この方が気楽と言えば気楽。
△ほしたら八五郎さん、この問診表書いとくなはれ。■へぇへぇ。何々、酒や煙草も書くんかいな。ほんまのこと書きまんの。△ほんまのこと書いてもらわんと、先生(せんせ)かて困らはります。■ほんまのこと書いて匙なげられるてなことおまへんか。ちょっとは遠慮して格好つけといた方が? △ほんまのこと書きなはれっ! ■さよか。割と気ィ短いな。ほな遠慮なしに。さらサラさらと。
■セルフかいな、ここわ。まぁ、別嬪の看護師さんに測ってもろたら血圧上がってまうっちゅうこともあるし、この方が気楽と言えば気楽。
△ほしたら八五郎さん、この問診表書いとくなはれ。■へぇへぇ。何々、酒や煙草も書くんかいな。ほんまのこと書きまんの。△ほんまのこと書いてもらわんと、先生(せんせ)かて困らはります。■ほんまのこと書いて匙なげられるてなことおまへんか。ちょっとは遠慮して格好つけといた方が? △ほんまのこと書きなはれっ! ■さよか。割と気ィ短いな。ほな遠慮なしに。さらサラさらと。
△八五郎さん、どうぞ診察室へ。■コンコン。★どうぞ。■ひつれいします。★どうぞ、そこへお掛けになって。■はあ、やっぱり普通のお医者の診察室とはだいぶこう様子が違いまんなぁ。なんや談話室みたいな雰囲気で、診察器具やら機械がおまへんなぁ。こらぁ、金掛からいでよろしわ。
★ハッハッハ、面白いお方ですな。問診表を見せてもろてますのやが、ふむ、ふむ、なるほど。不安でイライラして、食欲もない、夜も眠れん。そらお辛いですな。■お辛いっちゅうような生やさしいもんちゃいまっせ。「心が折れそうだった」byイチロー。電話してから今日まで待たされてる一週間が特にひどいもんやった。待つ身の辛さ、解らんやろなぁ。
★いやいや、それはどうも失礼(ひつれい)しましたな。しかし、初診のお方には充分にお話を聞かしてもらわななりませんのでな、どうぞ堪えて頂きますように。■えらい低姿勢でんなぁ。さすが精神科のお医者はんはちゃうわ。よろしゅうお頼ん申します。
★中学生の頃に檀家さんへの月参りの時に、初めて声が震うて手も震うたんですな。はぁはぁ、それ以来SADとお付き合い。それは大変な思いをしてこられたんですなぁ。■いえね、ずっと大変やった訳やおまへんねん。うまいことこう付き合いしてきたんでっけどね。ここ三四年あれこれ続いたもんでっさかいね、調子が悪なってきてたんでっしゃろ。そこへもってきてウィスキーをやめたもんやさかいに、SADがへんねしょ起こしよりましたんやなぁ。
★あれこれ続いたと仰るのは? ■へぇ、本堂と鐘楼の大修復がおましてな、その最中にミー子が難しい病気、扁平上皮ガンとか言いましたけど、それに罹って死んでしもたんですわ。あっ、ミー子ちゅうのは、13年間一緒に暮らしてた三毛猫でんねん。わたいが外から帰ってきたら「お父ちゃんお帰り」ちゅうて玄関先で出迎えてくれまんねん。家内や子倅は出てきまへんで。寝る時はいつもわたいの右の脇へこう入ってきてね、仲良うスヤスヤと。そらぁ可愛い猫でしてん。それが、あんさん、・・・、病名が分かった時にはもう・・・余命三か月言われましてな、グスッ、ああ、もう、・・・。
★まあまあ、落ち着いて落ち着いて。それは悲しいことでしたなぁ。■それが悲しんでる間ぁもおまへんねん。修復工事が終わったら落慶法要がおましてな、これの準備に半年間追いまくられてましてん。やっとそれが終わったら、なんやもう腑抜けみたいになって、何にも手に着かんようになってしもたんです。
〔補 足〕
・実際の八五郎は初診の聞き取りが捗るようにと、SAD発症の頃から現時点までの経過をA4用紙一枚にまとめ、医者に提出した。
・SADの人間は初対面の相手が苦手なものだが、この先生の穏やかさ和やかさに安心感すら覚えた。第一印象GOOD!!
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